支払までの期間
手形の振出から支払いまでの期間、約束手形サイトについて説明しています。
約束手形サイトとは
約束手形を振り出してから支払をするまでの期間のことを約束手形サイトとよびます。
誰しも支払までの期間は、短い方がありがたいです。この約束手形サイトが長い手形が不人気になるのもうなずけます。
しかし、約束手形サイトが長い手形を敬遠すべき理由は他にもあるのです。
約束手形サイトの長い手形は危ない?
まず、その約束手形。なぜ手形サイトが長く設定されているのでしょう。
その手形で支払がされる商取引の利潤の確定が遅い場合、それは今、その金額を出せないということです。ここは忘れてはいけません。
約束手形サイトの長い手形を呈示された場合、以下のことは確認しておきましょう。
- なぜキャッシュでの支払ができないのか。
- 支払日までにどのように額面の金額を用意するのか。
手形での支払がセキュリティー上のルールである会社もありますので、このチェックポイントは全てに当てはまるわけではありません。
ですが、高額な額面での取引が少なくない約束手形。心配のしすぎというものはありません。自分が損をしないためにも、できることはしておくのが得策です。
サイトの長い約束手形の呼び方
あまりにサイトの長い約束手形は、手形割引時にも不利になることがあります。目安となるのは、120日と言われています。
それらは、あまり好まれるものでなく、隠語で呼ばれることが多いです。
ここでは、3つの隠語を紹介します。
- 七夕手形
振出から支払いまでに1年の期間を有する手形のこと。目安の120日の3倍ですので、割引不可も考えるべき手形です。
- お産手形
振出から支払までの期間が10か月ほどかかるもの。名前の由来は、妊娠期間の十月十日から。
10か月というと約300日。こちらも割引不可、してもらえても割引率の増加は避けられないでしょう。
- 台風手形
振出から支払までの期間が210日のもの。名前の由来は、立春を起算日とした210日目が台風の襲来日として古くから言い伝えられていることから。
七夕手形やお産手形より、いくらかマシですが、割引率の増加は覚悟しておきましょう。
約束手形の時効について
約束手形の注意点として約束手形の時効も挙げられます。手形は支払い期日(満期日)が過ぎても、手形の券面を持っていれば支払い期日から3営業日以内の支払い呈示期間にお金の請求が可能です。
またこの期間に支払われなくても、権利は存続します。何年間で時効になるのかは、債権の種類によって異なります。
また手形の場合は、誰が誰に請求するかによって時効の期間が違います。
振出人に対して請求した場合
3年です。支払い期日の翌日を起算日とし、3年間の時効期間があります。
裏書き人に対して請求した場合
振出人に支払いを拒否された場合、裏書人に請求することが可能です。しかし裏書人に請求した場合、誰から請求したかによって時効の期間が異なります。
1.所持人からの請求の場合
拒絶証書を作成した日(拒絶証書作成免除の場合は満期日)から1年間です。
2.弁済した裏書人から請求する場合
弁済した裏書人が手形を受戻した日から6ヶ月です。
3.1で弁済した裏書人がさらに別の裏書人に請求する場合
弁済した裏書人が手形を受戻した日から6ヶ月です。
保証人に対して請求した場合
1.振出人の保証人に対して請求
支払期日から3年です。
2.裏書き人の保証人に対して請求
拒絶証書を作成してから3年、拒絶証書作成免除の場合支払い期日から3年です。
拒絶証書とは?
拒絶証書とは、支払いを拒絶されたことを証明する書類です。公証人か執行官の署名が必要です。作成費用がかかり、さらに裏書人が複数人いる場合、速やかな請求ができなくなる場合もあります。
そこで「拒絶証書不要」という場合もあります。これは統一手形用紙の裏面に記載されており、手形の所持人は拒絶証書が無くても遡求する権利を行使できます。手続きを省略でき、スムーズに手形を流通させることができます。
時効は中断させることも可能
手形の権利は行使しないと一定期間で時効を迎え権利がなくなってしまいます。しかしそれまでに手続きを行うと、時効の進行をストップさせることができます。これを「時効の中断」といいます。時効が中断されると、その時から改めて時効の計算が始まります。その方法は以下のものがあります。
債務者による債権の承認
債権者から債権を承認させる方法です。債権者から債務承認書と確定日付をとります。もし債務承認書が取れない場合は、支払いを待ってほしいという依頼書や、利息だけ支払うなどの債務の一部弁済でもOKだとされます。
催告
債務者に支払を請求することを指します。配達証明書月の内容証明郵便を使って行います。そしてその請求から6ヶ月以内に裁判上の請求を行うと、時効は中断します。裁判上の請求とは訴訟や支払い督促の申し立てなどのことです。
また差押えや仮差押え、仮処分などでも時効は中断します。
時効中断の計算方法
時効が中断すると、それまでの期間をゼロとします。例えば振出人に対する時効が1月30日だった場合、振出人が1月29日に債権の承認を行ったとします。すると翌日の1月30日から3年後の1月29日まで消滅時効は延長されます。しかし支払い督促などで時効が中断した場合、中断後の時効期間は10年とされています。
もうひとつの時効
もうひとつ注意点があります。それは取引自体の支払いの消滅時効です。
製造業や卸売業などの売掛代金の時効は2年です。この債権が時効によって消滅した場合、手形の支払い義務も消滅するとされています、法律的な義務が無くなるため、支払いを拒否される可能性があります。これは振出人と請求する人が取引を行った当事者で有る時に生じます。この支払拒否の理由を「人的抗弁」といい、第三者に手形が譲渡された場合には主張できません。
買い戻し請求権にも時効がある
約束手形の注意点に「不渡り」に関しても挙げられることが多いと思います。もし手形が不渡りになってしまった場合、割引依頼人に手形代金を請求することを買い戻し請求権といいます。この買い戻し請求権にも時効が存在します。手形の再売買の代金債権としての消滅時効が5年間あります。この消滅時効が完成してしまうと、債権としての効力も無くなります。
買戻し請求権が発生するタイミングは?
買戻し請求権が発生するタイミングは、銀行取引約定書によって定められています。
- 割引依頼人の預金に対して、差押え、破産、取引停止処分などの問題が発生した時
- 保証人の預金に対して、差押えや破産などが発生した時
- 債権者の要因がある場合で、債権者の所在が不明になった時
2種類の時効
また時効には「取得時効」と「消滅時効」の2種類があります。買戻し請求権は消滅時効です。これは時期が来たら消滅する権利のことです。取得時効はこの時効が過ぎればその権利を取得できる時効のことを指します。
もうひとつの権利「遡求権」
手形が不渡りになった場合、もうひとつの行使できる権利があります。それが遡求権と呼ばれるものです。これは振出人、裏書人に手形を提示し、額面金額を請求できる権利です。裏書人が3人いれば、3人全員に支払いを請求できます。3人のうち1人が全額を支払った場合、支払った人は自分より前に裏書きした人物に対して訴求することが可能です。手形の遡求権の消滅時効は1年です。
遡求権を行使する手順
まず手形の記載に間違いがないか確認します。どこか間違っていた場合は正式な手形としてみなされない場合があります。次に拒絶証書を作成しますが、裏書きに「拒絶証書作成不要」とあれば必要ありません。
そして手形が不渡りになったことを、支払い呈示日から4日以内に内容証明郵便で、振出人と裏書人に送ります。不渡りを出しているので支払ってもらえないこともあります。その場合は訴訟を起こすことも可能です。
手形訴訟とは
手形訴訟とは裏書人に遡求権を行使しても支払いがない場合に起こす訴訟です。通常の訴訟とは異なり簡単な手続きで行えます。この手形訴訟は時効中段の理由となり、時効を中断することが可能です。
手形が不渡りになった場合、すばやく債権回収のための強制執行の手続きが行えるようにと設けられました。手形の現物、契約書、領収書などの書面を揃えて審理を行います。手形があれば1回の審理でほぼ請求は通ります。
判決は早ければ口頭弁論期日から1~2週間、長くても2ヶ月程度です。この請求が認められれば、強制執行の手続きに入ることができます。もし判決に不服がある場合、異議申し立てを行うことが可能です。
もし手形を紛失してしまった場合は?
手形を紛失しても、お金を受け取る権利そのものがすくに消滅するわけではありません。しかしその手形が第三者に渡ってしまうと、所持人は権利を失うことになります。またその第三者から支払い請求があった場合は、振出人はお金を支払わなければいけません。これを防ぐためは次のような手順が必要です。
銀行と警察に連絡する
手形を紛失してしまった場合は、振出人に連絡を取り取引銀行に「事故届」を提出してもらいましょう。自社が振出していた手形の場合は自社の取引銀行に「事故届」を出します。また警察に「紛失届」や「盗難届」を提出し、「遺失(盗難)等受理証明書」をもらいます。この証明書は裁判所への公示催告の申し立てに必要です。
裁判所に連絡する
裁判所で公示催告の申立てを行います。これは裁判所が「紛失した手形を所持している人は、決められた期日までに届け出るよう」裁判所の掲示板などに掲げることです。届出が無ければ、裁判を行い、手形の権利の失効を決定します。
紛失した側はその裁判所の決定の正本を振出人に呈示すれば、支払いを受けることが可能です。申立ては簡易裁判所で行います。この際に遺失届出や盗難被害届出などの様々な書類が必要となるので、しっかりと保管しておきましょう。